勇者死す。
メーカー:日本一ソフトウェア
機種:プレイステーションVITA
発売年月日:2016年2月25日
価格:6458円
ジャンル:RPG


執筆: アルツ社長

映像 音楽 快適性
&操作感
独自性 難易度・
バランス
ボリューム シナリオ 総合評価
4 6 4 4 2 3 6 37
プレイ時間…10時間程度
※各項目は10点満点、総合評価は100点満点
良ひ!良ひぞ!!
・テキスト部分の出来は悪くはない(↓で挙げた通り物量は無いが)。メインキャラだけでなく、街のモブのキャラが話すセリフに至るまで、妙に黒くて毒を含みまくる味わいは桝田省治氏ならではか。この辺はドラクエの堀井節、MOTHERの糸井節に通ずる、「この書き手ならでは」の個性的な文章を楽しめる内容ではある。

・1周が短いって点では気軽に遊べるのかもしれぬ。
イカンぞな。
悪い意味で『作業ゲー』の色合いが濃すぎる。ゲームの内容そのものは既存のRPGの要素をバッサリ端折った結果、複雑かつランダム性のあるフラグの回収が主な目的になっているのだが、条件があまりに分かりにくく、ゲーム内のヒントも少なく、また求められる手順に関しても遊び(=期間・順序・仲間などの条件)が少ないせいでガッチリとパターン化を要求される印象で終始窮屈、しかも部分的に運任せ。ここまでフラグ回収ゲーにするんなら、それこそチュンソフトのサウンドノベルみたいにチャートでも充実させれば良かったのに、それも無い(勇者の日記とかあるにはあるが、一言二言勇者視点での言葉が述べられているだけであってフラグ管理には役立たない)。苦労して手順を覚えてもランダム性がプレイヤーの立てた計画をことごとく妨害してくる。結果、何となく見通しは立ってるのに延々と試行回数だけ蓄積されていく…。『薄さ』・『ボリュームの無さ』をこういう嫌がらせ的な手法で水増し・誤魔化てくるのって「ちっちゃ!」※ホント腹立ったんで『俺屍2』の某ナビゲータキャラの例のセリフで表現しときますね(苦笑)

周回前提の作りだが、フラグの管理が必要以上にめんどくさい&苦痛なだけであり、致命的に面白くない楽しいって思える部分が本気で無い。あと、「こういうのあればテメェら喜ぶんだろ」的な直接的・安直なエロ要素で釣ってくる手法がこの上なくセコい。シナリオ(世界観・人物の描写)・キャラの育成・敵との戦闘・豪華なグラフィック・ボリュームもろもろ、既存のRPGってジャンルそのものを全力で否定しつつRPGをのカタチを取ってるのは一見ユニークではあるが、どの要素もキレイに「否定してるだけ」で代わりの面白さが見当たらんのよねー…。なんかインタビュー記事では氏は「いろんな会社から製品化をボツにされた」とか仰ってるんだが、それも仕方ないかなーって感じはする。「主人公が弱る・死ぬからネガティブで」とかじゃなくてそれ以前の問題、こんだけツマランかったら、そら企画段階でストップかけるんじゃね?…って言うね。

過去の桝田氏のゲームではプレイヤーのゲームプレイのスキルやプレイスタイルに合わせた丁寧なバランス調整がなされていたものだが、本作ではその辺も綺麗にバッサリ。物量も無くバランス調整も粗末、それでいてフルプライスってのはあまりに杜撰な仕事っぷりと申すか、割に合わん。

戦闘がホント面白くない。最初は勇者が強すぎて適当に攻撃を繰り返すだけ。すぐ弱くなってからは極力逃げるだけ。そんな感じで両極端になりがちであり、丁度いい期間が極端に短い。かつ、フィールドが2Dなのにジャンプはできない=戦闘そのものが邪魔な上に、敵を回避するのが非常に難しいせいでストレスばっかり蓄積する(一応アイテムで回避も可能だが所有数に限りがあるので常時避けられるわけではない)。勇者が弱くなるってのをプレイヤーに感じさせるには敵が必要だったのだろうが、戦闘を入れるっていう説得力はあっても、付随する面白さがまるで感じられんのはやっぱ厳しいのでは。

・グラフィックの描画そのものは3Dだが、全体的にチープなのが気になる。キャラクターの描写はトゥーンレンダリングだが、ポリゴン自体が粗く輪郭の線がやたらと細いためにノイズが入ったように見えて逆に汚い。あと、この辺は好みにも拠るだろうが、あまりにギャルゲー全開な絵柄・テイストも個人的には少々キツい。

・BGMはロマンシングサガ等でお馴染み伊藤賢治氏の作曲だが、正直あんま印象に残る曲は無いなーって感じはした。

・元がケータイアプリな事も関係しているかもしれんが、それにしたって率直に『薄い』。この薄さは遊んでる最中ひっきりなしに感じられてしまう部分でもあり。でその『薄さ』、家庭用フルプライス移植にあたって相応の肉付けもされているとも言い難く。かつての桝田氏のゲームデザインの凄さってのは割り切りの巧みさ・大胆さに拠る「こういう切り口もあるのか!」なる驚きに支えられていたと思うんだけど、本作の場合はいくら何でも全方位であっちもこっちも割り切り過ぎ。ここまで大胆にやられると悪いけど最早『発想の転換』って言うよか『ただの手抜き』にしか思えない
THE 感想。
 『リンダキューブ』、『天外魔境II』、『俺の屍を越えてゆけ』等で知られる桝田省治氏のRPG。

 既存のRPGのアンチテーゼって見方では前述のリンダ・俺屍を彷彿とさせる部分もあるんだが、悪いけども遊んでてホント苦痛しか感じない。過去の桝田ゲーの悪いトコだけを煮詰めて更に濃縮した感じで。加えてボリュームの無さにしてもUIの快適性に関しても色々随所に手抜き感漂う作りで、遊んでて純粋に面白いって感じたのが氏の毒のあるテキストだけってのが寂しい。

 VITAで1コ前に出た『俺屍2』は味付け(=シナリオ・キャラ設定)で大失敗していたが、システム面では破綻は無かった(=フリーズやらセーブ消失やら問題も多かったがシステム自体は前作に近い楽しさはあった)。それに対して本作ではそもそもシステム・バランス自体に楽しさを感じないって点で厳しい。切り口こそ一見ユニークで面白そうに見えるけど、そもそもコンセプト自体が滑ってるんじゃないかっていう。
 ゲーム全般、面倒くささを乗り越えても相応のご褒美・快感が全く得られないのが辛い。そんな感じなんで数周くらいした時点で「あー…しんどいだけで面白く…ない。もういいかな…」ってなっちまってな。ここまで誤魔化しナシの『ド直球の作業が面白くない手の作業ゲー』、いやーキッツイ…わしゃ、コリャ無理だなァ。


 なんと申すか…不遜な言い方になるけど、やっぱ20世紀が終わった時点で既に才能が枯れた人だったのかねって感じはする。インタビューやらご自身のトゥイッターやらでは毎度毎度客を過剰に煽る発言を繰り返して物議を醸す事の多い氏なんだが、面白いゲームを作ってる内は話題性の提供とか役立つんだろうけども、肝心の品質の方が21世紀に入ってからはトホホ続きで。…となると、必然的に『炎上を繰り返すだけで偉そうな割に"なんだかなァ"な人』って印象になっちまって。21世紀に入ってからの氏の作品、当たりだったのは俺屍のPSPリメイクくらいで他は軒並み微妙〜アウト寄りだしな…。

 昔は好きなクリエイターだったんだがな…。近年のハズレ率の高さからして本作にも期待してなかったとは言え、実際遊んでみるとやはりションボリで。せっかく新品買ったのにさ(もっとも、ワゴン化してからだけどな)。で、買った客に対しての氏のトゥイッターでの発言が居直った上でわざわざ噛み付き返して「買ったのはあんたの責任でしょ?」でございましょ?ガキかっつーの、酷いハナシじゃ(苦笑)。

 俺屍2のセルフ「メアリー・スー」の一件からここ数年の経過でホント失望したと言うか、ただただ残念。奇跡のご復活、願いたいもんなんだけどねー。はてさて、どうなりますやら。

 なんと申すかアレよね。この一連の流れそのものが、なんだかどことなく『勇者死す』(合掌…)。

掲載日:2018年8月21日


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