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Ghost of Tsushima
Director's Cut
メーカー:ソニーインタラクティブエンタテインメント
開発:Sucker Punch Productions
機種:Steam
発売年月日:2024年5月17日
価格:7590円
ジャンル:アクション
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![]() ディレクターズカット版 |
| 映像 | 音楽 | 快適性 &操作感 |
独自性 | 難易度・ バランス |
ボリューム | シナリオ | 総合評価 |
| 10 | 9 | 9 | 9 | 9 | 8 | 10 | 91 |
| ふむ、まずまずの出来だ(良い点) |
| 《映像・演出・シナリオなど》 ・現在の日本の長崎県に多数存在する離島の一つ、対馬。その対馬における鎌倉時代の蒙古襲来を舞台設定とした時代劇の物語。主人公の武士である境井仁は武士の誉れある戦いでは蒙古に勝てないと、誉れを捨てた『冥人(くろうど)』の戦い方を身に付けていく事で、最終的に対馬を蒙古の支配から解放するのがゲームの重要な目的となる。多数の登場人物達の矜持が入り混じり、波乱の展開が待ち受ける物語の完成度は極めて高い。セリフ回しや演出は奇を衒ったものよりも昔ながらの真っ当な日本の時代劇らしいものが多く、ゲームでありながら時代劇映画を鑑賞しているような気分になる。 ・役者の演技力と表現力がかなり高い。例えば、主人公の境井仁の外見モデルと戦闘時を除くシーンのモーションアクターは日系アメリカ人俳優の辻大介氏によるものだが、表情変化やシーンに合わせた演技力は真に迫ったものとなっており、時代劇モノとして大変見応えがある。また日本語ボイスの声優は中井和哉氏が担当しているが、こちらも高い演技力で2人合わせて境井仁という人物に命を吹き込まれている。他の登場人物達の演者と声優さんもプロを採用しており、ゲームのキャラクターというよりまさに時代劇の役者であると言える、とても人間性を感じられる人物ばかりとなっている。 ・映像の数はかなり多いものの、ゲームの要所ごとに数秒から数十秒の映像が入るだけで、あとは戦闘中や移動中に会話のやり取りが行われるなどコントローラー操作が出来ない時間は短く取られている。長い映像だと数分から十分程度かかる事もあるが、長い映像はストーリーの根幹を担うシーンのみでどれも見応えある内容なので気にならない。短く必要な情報として纏められているため、これもゲームのテンポの良さに繋がっている。 ・グラフィックは非現実的な表現や彩度の高さは控えめにしつつ、日本文化の侘び寂びを的確に再現した表現が多い。色なき風で紅葉が舞い散る山中や、日本晴れの空の下にさざ波が立つ海岸線など、時代劇ならでは風景が適切に演出されている。また、フォトモードで城や農村などで適当に撮ってもまるで時代劇のワンシーンのような写真が撮れるなど、建築物などの再現度もかなり高い。 ・スタッフロールを見て気付くが、制作チームに日本人の名前はほぼ無い。しかしながら水墨画のような一枚絵や、作中の時代考証など、日本文化に関する表現や知識は的確なものばかり。時代劇にありがちな民を見捨て権力ある者に属する生臭坊主や、戦の機会に私腹を肥やす商人といった王道的なものだけでなく、狩りで食い扶持を保つ村には動物を弔うための塚が設置されているなど、細かな日本の文化も丁寧に描写されている。日本文化の専門家が本作を分析すると正確には戦国時代や江戸時代の文化も幾つか取り入れられている事もあるらしいが、演出やゲーム的な都合として必要な分のみに抑えられている模様。総じて、日本文化の知識量と表現力が秀逸なゲームになっている。 ・浮世草や傳承(どちらもいわゆるサブストーリー)ではメインストーリーとは違う形で蒙古と対抗する人々の物語が展開されており、これも当時の民衆や武家の時代背景が上手く反映された物語でかなり見応えがある。個人的にはさらっとドン引きする発言をしてシュールな笑いが誘われる石川先生の浮世草がお気に入りだが、シリアスな話や人情話など幅広いジャンルの時代劇物語が展開され、いずれの人物も各々の矜持と人間性を考えさせられる内容になっている。 《アクション・ゲーム難易度など》 ・プレイ中はいつでも難易度の変更が可能であり、特に難易度を簡単に設定すると受けるダメージにかなり余裕が出来るため、求められるアクションゲームの腕前は低め。難易度を普通以上にするとそれ相応の腕前が求められるので、初心者も上級者も対応できるゲームバランスに仕上がっている。 ・武士らしく正々堂々と戦う手段しか持たない序盤は多数の敵を相手にすると難しいが、ゲームが進むにつれ闇討ちや多人数戦で有利になる冥人の技を次々と取得するため、ゲーム進行に合わせて戦略の幅が広がる面白さがある。隠密行動や多人数戦、敵の使う武器など、戦闘時の状況に合わせた立ち回りの豊富さが本作の戦闘シーンにおける最大の魅力。 ・チェックポイントがこまめに用意されており、攻略中に失敗してもチェックポイントから体力と気力ゲージが満タンになった上で再挑戦出来る。慣れない間はうっかり崖から落ちたり敵の連続攻撃を受けて絶命する事も多々あるが、失敗した地点からかなり近い場所に戻されるので、ミスを恐れずプレイ出来るのは精神的にも気楽。 ・主人公の境井仁の身体能力が良く、常に機動力が高い。大半の建築物はどこからでもよじ登る事が出来る上、鉤縄や壁登りを使用して大幅にショートカット出来るルートが各地に用意されている。リアリティには欠けるものの、ゲーム的な都合を重視した爽快感ある機動力の高さは快適で良い。 ・ゲーム的な仕様を、当時の文化と上手く折り合いをつけながら取り入れられている点。例えば、各地の温泉地を探し露天温泉に浸かる、鳥居を辿って神社の本殿を見つけ出す、風光明媚な場所にて和歌を詠むといった、当時の武士の嗜みがプレイヤーの強化へと繋がるゲームデザインになっている。さほど詳しい知識を持ち合わせていくなくても、時代劇や日本文化をある程度知っていればこれらの醍醐味は伝わるかと。 《快適性・ロード時間など》 ・ゲームを初めて起動した時のみ使用しているGPUに合わせた最適化、シェーダーコンパイルの作業時間が数分かかるが、それ以降のプレイではロード時間がとても短くなる。自分のPC環境の場合では、他のオープンワールドゲームのファストトラベル時のロード時間が概ね十数秒?二十秒程度なのに対して、本作はなんと五秒。どのような最適化作業が行われているかの詳細は分からないが、製作者側としても本作の見どころの一つとして捉えているそうで、本作のロード時間の早さは驚異的。この世の様々なオープンワールドゲームの中でも、間違いなくトップクラスにロード時間が短い。 ・強くなるためには収集物の加工や技の成長をする必要があるが、ゲームシステムに関するTIPSの表示や戦闘時の指南が頻繁に表示されるので、忘れがちな仕様もTIPSから思い出す事が出来る。人によっては丁寧すぎると苦情が出そうなほど丁寧かつ頻繁に教えてくれるが、システム設定から表示を無くす事も可能。 ・複数のイベントやサブストーリーを同時進行する事が多いゲームだが、これらはゼルダの伝説ブレスオブザワイルドのユーザーインターフェースに近い表示方法となっており、メインイベントやサブイベントが一覧から纏めて確認できるようになっている。ゲーム進行次第で進行不可能となるサブストーリーが存在しないのも助かるところ。 ・ゲーム開始時には前回までのあらすじが流れる、長いメインストーリーが始まる際には開始時にその旨を予め忠告してくれるなど、現代の忙しい時間の合間を縫ってプレイしている人にも上手く配慮されている。 |
| おのれ、わしを愚弄するか!(悪い点) |
| 《ゲーム全体について》 ・必要以上の残酷な表現は演出せず、なおかつグロテスクな箇所は直接的に見え辛くなるような配慮はされているものの、火炙りや斬首、死体の吊るし上げなどの残酷なシーンがゲーム全体を通して存在している。残虐非道な敵の演出や当時の風習の再現のために必要な事ではあるものの、そうした残酷な表現が苦手な人は注意。 ・難易度変更で戦闘などは楽になるものの、神社参拝などアクションゲームの操作の腕前がしっかり要求されるシーンでは難易度変更しても難しさは特に変わらない。戦闘以外の収集品や一部のやり込み要素に関してはアクションゲーム初心者向けでないなと感じることがある。 ・目的地を設定すると誘い風の形で進むべき方向が風のエフェクトで表現されるが、上下差を考慮していないので直線的に向かうと崖に当たってしまう事がある。大抵は崖を上下出来る場所や回り道が近くに用意されているが、一部分かり辛い形状の場所も存在していた。 ・誉れプレイとも呼ばれる、敵との交戦を一騎討ちから始め、刀のみを用いて全ての敵と真っ向勝負するスタイルでは本作の戦闘の爽快感や醍醐味は楽しめない。武士の誉れある戦いを捨てた冥人としての戦いが物語のテーマであるため、武士の誉れを残したプレイがゲームバランス的にも難しさや爽快感の無さへと反映されている。意図的なものではあるが、本作はプレイヤーが非情な手段を用いる事を強いてくるゲームなので、武士としての真っ向勝負だけでプレイしたい人にとっては苦痛を感じる可能性がある。 《快適性について》 ・イベント中には人が居たであろう現場を観察しながら簡単な推理をする事があるが、どこに近付いて調べればいいのか分かり辛い事がある。遠く離れたり時間が経つと調べる場所にアイコンが表示されるようになるが、オプションで常に表示されるよう設定出来れば更に快適だったと思う。 ・ゲーム終盤になると戦闘時に使える暗器や技の種類が極めて豊富になるため、戦闘時に焦るとボタン操作が難しく感じる事がある。全てのアクションを使わずプレイしても問題はないが、スタイリッシュに武器を使いこなして戦いを進めるには難易度関係なくプレイヤー自身の高い適応力が求められる。 |
| わしと同じ轍を踏むでないぞ…(感想です) |
| 13世紀後半、東アジアを主軸にユーラシア大陸各地へ支配を拡げていったモンゴル帝国、いわゆる蒙古が日本の対馬へ侵攻をしてきた蒙古襲来を舞台にした物語。時代劇の中でも本作が何故に対馬の蒙古襲来を舞台に作ろうとしたのか最初は疑問を覚えたが、これには日本の武士の『誉れ』が重要なキーワードとなる。 如何なる時代劇でも日本の武士たるものは、武士として誉れある戦いをするべきだという矜持を持ち合わせており、その誉れこそが時代劇の武士の最大の魅力へと繋がっている。しかし、そうした武士の前に誉れを知らぬ実利主義の蒙古が強大な敵として現れ、武士の誉れある戦いが通用せず尽く敗れていった場合、武士は如何に島を守る戦いを続けていくのか? この問い掛けを物語のプロローグに用意する事で本作の主人公の境井仁は蒙古に対し、自らが矜持としてきた武士の誉れある戦いが通用しない事を一人知る事となり、やがて武士の誉れを捨てた《冥人》の戦い方を次々に身に付けていく。時代劇の誉れある武士と、実利主義の蒙古に対するジンテーゼとして生じた冥人は本作の重要なテーマへと大きな発展を遂げており、そうした理由から対馬の蒙古襲来を舞台設定としたのは見事であったと言うしかない。 オープンワールドゲームでここまで快適性に特化したゲームも珍しく、ここ十年ほどのオープンワールドゲームと比較するならば、ゼルダの伝説ブレスオブザワイルドの快適性にも匹敵するほど快適にプレイ出来るよう考え込まれたゲームであると感じた。特にロード時間やチェックポイントの多さは驚異的で、コントローラーを置いて待たされる時間が常に短い。 チャンバラで敵と刀を交えて戦う光景など、本作よりも1年ほど前に発売されたSEKIROと本作が比較される事も多いが、圧倒的な難しさを誇るSEKIROよりも本作の方が遥かに簡単で、ゲームデザインも似て非なる内容になっている。どちらも完成度の高いゲームで個人的には甲乙つけ難い所ではあるが、難易度や快適性の都合で、他者にお薦めする上ではゴーストオブツシマの方が遥かにお薦めしやすい。 ゴーストオブツシマのゲームデザインを引き継いだGhost of Yoteiが近々発売されると聞いてゴーストオブツシマをプレイしたが、想像していた以上に堪能出来るゲームだった。映像面やシナリオ面など、映画の評価としても高い評価であるが、それと同等以上にオープンワールドゲームとしても秀逸な内容に仕上がっている。ゲームを作る上で時代劇映画のエッセンスを少し取り入れた……という程度のものではなく、オープンワールドゲームとしても時代劇としても、徹底したリスペクトの上で完成させたと言えるゲーム。 |
掲載日:2025年9月23日
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